常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビューVol.7 長山哲也さん
- 谷部文香
- 2022年8月26日
- 読了時間: 8分
更新日:2022年12月6日

常陸大宮市の認証特産品である枝物。「枝物+α」で生計を立てる人が多い中で、枝物一本のパイオニア的存在が、長山哲也(ながやまてつや)さんです。
もともと農業とは無縁の世界で生きていた長山さんに、枝物と出会ったときのこと、枝物との向き合い方、今後の夢などさまざまなお話を伺いました。
枝物との出会いは「面白そう」という気持ちから

――常陸大宮市出身だと伺いました。ご家族に農業関係者や枝物に関わっていた方がいらっしゃったのでしょうか。
緒川(常陸大宮市)出身です。関わりというと、親戚が枝物栽培をしていました。私は農業や枝物とは関係のないところで働いていたのですが、長年腰の調子が悪かったんです。ちょうど枝物栽培を始める前に、腰の手術をしました。以前から腰痛が原因で仕事を休んだり、ひどいときは退職するということもありました。手術後、次の就職先について悩んでいたときに、母親から親戚が枝物栽培をしていると聞きました。「枝物ってどうなんだろう。」と気になり、畑を見せていただき「面白そう」と思ったことがきっかけです。
――農業未経験で不安な気持ちや農業に対して、大変といったイメージはなかったのでしょうか。
大変というイメージはありました。それでもやはり腰の手術が終わって、休んでいたときに、次の仕事は、自分の裁量で決められるものがいいなと思っていたので、ちょうど良いタイミングで枝物に出会ったと思います。
――そうだったのですね。「面白そう」という気持ちから実際に枝物栽培を始めてみてどうでしたか。
枝物栽培を始めたのは、28歳の頃でした。今でこそ枝物は、常陸大宮市の特産品にもなり、認知度もありますが、その当時は「耕作放棄地を解消して地域を活性化する」「年金+α」、そんな位置づけでした。
「年金+α」というのは、退職する3年ほど前に畑を始め、ハナモモ(花桃)を植え、ちょうど退職する頃に、3年前に植えたハナモモが出荷、稼げるようになる。そのような形なので、枝物一本で食べていく人はいませんでした。「枝物農家になりたい」と言っても、「枝物?大丈夫?」と言われることもたくさんありました。

――そのような中で「枝物農家」として生きていくと決めたのはなぜでしょうか。
もう畑を借りてしまっていたので、後戻りはできない状態でした。それでも大変なイメージよりも「面白そう」「楽しそう」という気持ちが大きかったです。
「奥久慈枝物部会」には、100人以上会員がいて、少しずつですが若い人も入ってきています。部会の会長である石川幸太郎(いしかわこうたろう)さんのところで研修する人もいますが、その当時は、研修もありませんでした。私の場合は、親戚が枝物を栽培していたので、切り方を教えてもらったり、徐々に見様見真似で覚えていきました。
新規就農するための書類を作成するときは、これまで枝物一本で生計を立てる農家がいなかったので、どういう風に書類を書いたらいいのかも分からず、農業改良普及センターの方に相談しながら一歩ずつ前に進んでいきました。
――枝物ではなく、他の農作物を栽培することは考えなかったのでしょうか。
考えなかったですね。
「枝物をやりたいです」と言ったときは、市役所の方も農業改良普及センターの方からも、「枝物で大丈夫か」と心配されました。少しでも野菜栽培をした方がいいのではないのかと。枝物はすぐ出荷できるものではなく、植えても3年、長いものだと7、8年はかかってしまいます。そういうのもあって、周りの方々は心配してくださいました。
それでも私はやっぱり枝物農家として生計を立てていきたいと思っていたので、他の作物を栽培しようとは思いませんでした。
――前例のないことは本人はもちろんのこと、周りの方も不安なことが多いですよね。新規就農してどのくらいで生計を立てることができましたか。
就農して3年目に入り「農家として生きていく」が達成できたように思います。ハナモモを植えていますが、3年目に入ってやっと出荷できるようになりました。
枝物というと、ハナモモのイメージが強いかと思いますが、実は種類が豊富です。草花も実は枝物。最近新規就農した方は、枝物の中でも草花を中心に育てています。草花は、1年ほどで育ちます。
枝物にもさまざまな種類があり、育ちが早いものもあることが分かれば、枝物に興味がある人も増えていくのではないかと思います。
一人だけど、一人じゃない。仲間とともに助け合って

――草花も枝物とは驚きました。枝物栽培の難しさや長山さんならではのコツはありますか。
6、7年近く枝物と向き合っていますが、正直なところ未だにコツは分かりません。就農する以前に親戚の畑でウンリュウヤナギ(※)を切らせてもらったり、消毒の仕方を学びました。 それなりに経験をさせてもらっていたので、私の中では枝物の知識がある程度あると思っていたんです。ですが、自分の畑で育ててみたら、同じように枝物を栽培したのに、親戚の畑では見られなかった病気にかかってしまいました。それが結構長い間続いたんです。枝物を育てる上での農薬もしっかりメモして同じように育てたはずなのに、何でだろうと。

(※)ウンリュウヤナギ……暑さ寒さに強く、成長が早いのが特徴。あっという間に枝を茂らせ大きくなる様子から「素早い対応」という意味の花言葉がつけられる。和名の雲竜柳は、くねくねとした枝がまるで雲の切れ間から縫って、優雅に舞い上がる竜のように見えることから来ている。
――そうなのですね。悩んだときは、病気などの問題に対してどのように対応するのでしょうか。
同じように育てたからといって、同じものができるとは限りません。枝物が病気になった原因が分からなかったので、農業改良普及センターの方や近くの農家さんにも聞きました。結論、ダニだろうということになりました。
そのほか、土によっても、育ち方が違うので、自分の土地に合った方法を今も模索しているような状態です。何年たっても難しいですが、それ以上に楽しいですね。
――「難しさ」よりも「楽しい」気持ちが大きいのですね。
そうですね。手間暇かけて育てた枝物が売れたときは、やっぱり嬉しいです。それに枝物栽培は、自分一人で作業しているわけではありません。もちろん自分の畑は、基本的に自分で作業しますが、部会があるので、みんなで助け合っています。部会の人たちはとても優しくて面白い人が多いです。さきほどもお話したように、枝物が病気になってしまったときは、気軽に相談できます。また、ハナモモを出荷する際は、促成施設に一気に持って行って、まとめてみんなで出荷作業をすることもあります。そういうときに、情報交換もできます。枝物栽培は「一人だけど、一人じゃない」ので、大変でも難しくても、やっぱり楽しいですね!
青年部のメンバーとして、新たな一歩を踏み出す
――楽しんで枝物栽培をする様子が伝わってきました。「楽しく」仕事をするというのは、とても大切なことですよね。最後に「枝物」を通して今後取り組んでいきたいことを教えてください。
私のように、もともと親戚が枝物栽培をしていたり、親が関わっていたりと、枝物農家になる人は、まだまだそういったつながりで、始める人が多いです。また、「年金+α」で、定年後に枝物栽培をする人が多く、枝物一本の農家や若い人もまだまだ少ない状況。できれば若い人に枝物に興味を持ってもらいたいです。
――若い人に枝物に興味を持ってもらうために、何か取り組みはされていますか。
そうですね、青年部(ヤングファーマー部)という団体を2022年6月に作りました。「若い人に興味を持ってもらう」とはまた少し異なるのですが、枝物農家として「枝物一本で生計を立てる」そういう農家の集まりです。青年部として、市場見学や農薬・肥料講習、農機具のメンテナンスなど、そういったことを部のみんなで話し合い、助け合いながら枝物農家として頑張っていこうとしています。決して大きな活動ではありませんが、私たちの活動を知って、もしかしたら枝物に興味を持ってくれる若者が現れるかもしれません。そんな期待を持ちつつ、一歩一歩進んでいこうと思います。
取材・文・写真(一部提供を除く) 常陸大宮市地域おこし協力隊 谷部 文香
取材協力 雅農園 海野 雅俊
長山哲也さんへのインタビューを終えて

常陸大宮市の特産品といえば、枝物。農家さんを対象としたインタビュー取材を始めたときから、いつかは枝物を専門とされる方にお話を伺いたいと思っていました。ご縁があり、枝物一本で生計を立てられている長山さんにこの度、取材することができました。
「これまでも取材は受けたことはたくさんあるのですが、緊張してしまうんですよね。でも、こうして自分の畑で取材してくれると、とてもリラックスして話をすることができます。」と笑顔で私の質問に答えてくださった長山さん。
農業とは無縁の世界で生きていた長山さんが、枝物と出会い「大変な仕事」よりも「楽しい仕事」として枝物と向き合っている様子が、取材を通して伝わってきました。まだまだ枝物には、若いパワーが必要だと語る長山さん。今年新たに始まった青年部の活動も含めて、長山さんや青年部の皆さんにこれからの枝物界を引っ張っていってほしいと思います。
この場をお借りして、改めまして、この度はお忙しいところインタビューを引き受けてくださり、誠にありがとうございました。
合わせて読みたい記事: 常陸大宮市農家さんインタビュー Vol.1~Vol.6、Vol.8~Vol.9は以下より
・常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビューVol.1 あさねぼう・笹島具視さん ・常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビューVol.2 野上勉さん ・常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビューVol.3 コトコトファーム・古東篤さん
・常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビューVol.6 梶山肇司さん・昭子さん ・常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビューVol.8 枝もの家・柳田雄介さん ・常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビューVol.9 田口薫さん
Comments