米粉スイーツKu- 西川久美子さん インタビュー【前編】:父の知恵と米粉が織りなす「幸せのお菓子」をお客様のもとへ
- 谷部文香
- 2023年2月28日
- 読了時間: 8分
更新日:2023年3月1日

2023年3月1日、茨城県常陸大宮市に、お菓子工房「米粉スイーツKu-(くう)」がオープンしました。オーナーは、東京都内でエステティシャンとして働いていた経歴を持つ、西川久美子(にしかわ・くみこ)さん。ある日突然、和菓子職人の父から送られてきたプリンがきっかけとなり、父の味を引き継ぎたいとお菓子の世界へ足を踏み入れたといいます。
美容の世界からお菓子の世界へ思い切って飛び込んだ西川さん。インタビュー前編では、西川さんの経歴、お菓子工房を開業しようと思った理由などを中心にお届けします。
エステティシャンからお菓子の世界へ。きっかけは、和菓子職人の父が作ったプリン
――「米粉スイーツKu-」オープンおめでとうございます!まずは、お店がオープンするまでの道のりについてお聞かせいただければと思います。西川さんは、もともと東京都内でエステティシャンとして働いていたとお伺いしました。常陸大宮市とはどのような縁があるのでしょうか。
私の母は、常陸大宮市(旧美和村)の出身です。両親は、神奈川県横浜市で結婚し、横浜市でずっと暮らしていました。なので、私も横浜生まれ横浜育ちでしたが、結婚を機に東京都で暮らすようになりました。
母は生まれ育ったところにいずれは帰りたいという気持ちを持っていました。今から約10年前、父とともに、常陸大宮市に家を建てて、横浜から引っ越してきました。私は仕事や生活のこともあるので、そのまま東京にいたんです。
――お母様が常陸大宮市のご出身なのですね。西川さんはそのまま東京で生活していたとのことですが、そのころからエステティシャンとして働いていたのですか。
もともとは、都内の料亭で働いていました。ランチの責任者をしていて、アレルギーのお客様は別メニューに変更するなどの管理もしていました。特に和と洋のスイーツを提供するレディースランチが人気でした。食との関わりでいえば、そこが最初ですね。
料亭なので、和室へ食事を運び膝をつき、正座をして食事をお出しするということを朝から晩まで繰り返していました。それが原因で膝を痛めてしまい、正座ができなくなってしまったことから、転職を考えるようになりました。
――なるほど。では、料亭の後に就職をしたのが美容業界ということでしょうか。
そうですね。そのときにたまたま出会ったのが美容業界で、まつげパーマ専門店でした。その当時は、年齢問わず未経験も可能で、お店の雰囲気も良かったこともあり、就職を決めました。
まつげパーマの仕事をする中で、将来的には美容全般をできるようになった方が良いと感じるようになりました。思い切って会社を退職し、美容師免許を取得するために、通信教育で美容専門学校に入学しました。
勉強している間も、何か仕事がしたいと求人を探していると、まつげパーマのお店同様に、未経験可能なエステサロンの仕事を見つけたんです。しばらくはそこで働きながら、美容師免許を取得するため、勉強する日々を過ごしていました。
――そうだったのですね。美容業界で順風満帆なイメージがあるのですが、そこからお菓子の世界に足を踏み入れたきっかけは何ですか。
美容師免許を取得後、一度は美容業界で独立をしたんです。そのあとに、資金をもう少し貯めたいと思っていたところ、以前勤めていたまつげパーマのお店から「もし良かったら戻ってこないか」と声をかけてもらい、ありがたいことに店長として働かせてもらっていました。仕事自体とても楽しかったので、その当時はこのまま、美容業界で働き続けるだろうと思っていました。
そんなある日、前触れもなく突然父からプリンが送られてきたんです。

――それは突然ですね!お父様が西川さんにプリンを送ったのには、何か理由があったのでしょうか。
父は和菓子職人ですが、若いころに働いていた会社では、パンも洋菓子も作っていたので、和菓子に限らず、プロとして一通りのお菓子を作れます。
特に何かイベントがあってプリンを作ったというわけではなかったようで、プリン作りに、はまっていたみたいなんです。昔からお菓子を作っては近所の人に配るような父でしたから。今回もそれと同じでプリンを作ったから娘にも送るといったように、父にとってはいつもの出来事だったようです。
ですが、届いたプリンを食べたとき、
「お父さんってこんな美味しいプリンを作ってたのかな。誰かにこのプリンの作り方を教えているわけじゃないだろうから、お父さんがもしいなくなったら、この味はもう食べられないんだ」
と、ふと思ったんです。そしたらとにかく悲しくなってしまい、涙が止まりませんでした。父の若いころのプリンは、かたいものが多かったと思うのですが。父の作るプリンはなぜか、最近のようなとろっとしたプリンでした。
驚きと同時に、この味をなくしたらいけないと思いました。私には姉がいるのですが、姉はまた別の仕事をしているので、父の味を引き継ぐなら自分しかいないと思ったんです。
「いつか」は絶対来ない。本気なら、今すぐにでも行動できる

――お父様の味を引き継ぐというところから、西川さんのお菓子作りがスタートしているのですね。
そうですね。でも最初はある意味、夢物語だったと思います。東京でエステティシャンとして働いているとき、自宅の近くにカフェがありました。そのカフェのオーナーさんがエステサロンやハーブクッキングの講師業をしながらカフェを経営していたんです。私もいつかその人のように、エステと食(お菓子)を掛け合わせて仕事ができたらいいなと思っていました。
でも私にはそんな資金もないので、あくまでも「いつか」のままだったんです。友人と旅行に一緒に行ったときにこの話をすると、友人から
「『いつか』と言っているだけでは、その『いつか』は絶対に来ないよ。いつかできたらなんて言っているうちは、本気じゃないと思う。今はクラウドファンディングで個人でも資金を集められる時代なんだから、本気でやりたいなら、今すぐにだって行動できるはずだよ」
と言われました。そのときに、私は一体何を悩んでいたんだろうと感じました。その一言がきっかけで、「いつか」やるのではなく「今」やろうと決意しました。
――「いつかと思っているうちは絶対こない」というフレーズ、心に響きますね。
その言葉に背中を押してもらいました。父と同じ味のプリンを作ろうと決めた矢先、父が突然倒れました。病院で検査をしてもらったら、急性骨髄性白血病と診断されたんです。医者からは、いつ亡くなってもおかしくない危険な状態だと言われました。抗がん剤治療をして元気になったので、とりあえず一安心したのを覚えています。
父のこともあって、このタイミングを逃したらもう後はないと思い、当時働いていた会社の社長に、父の味を引き継ぎたいので退職させてほしいと素直に伝えました。
社長もお父様の後を引き継いで社長に就任している方で、お父様はすでに亡くなられてしまっていることもあり、後悔のないように生きた方がいいと後押ししてくださいました。
娘を思い、反対する父。それでも私は、父のようにお菓子を作りたい
――とても理解のある社長さんだったんですね。西川さんのお父様は、西川さんが仕事を退職し、お菓子で生計を立てることに反対しなかったのですか。
半年ほど業務の引き継ぎをしてから会社を退職しました。そんなときに今度は、新型コロナウイルス感染症が全国的に蔓延し始めました。
社長は、いつ東京から出られなくなるか分からないからすぐ父のもとへ行った方がいいと言ってくれました。父にその話をすると、この世界の厳しさをよく分かっているからこそ、
「お菓子を一体何個売ったら、エステと同じ金額を稼げるか分からない。生活するのは難しいだろうから、エステの仕事を続けた方がいい」
と反対しました。

それでも私はお菓子を習いたいですし、父のようにお菓子を作れるようになりたいと思っていました。それなら、エステもお菓子も両方やればいいと思ったんです。
さきほどお話をした、エステサロンとカフェを経営する方に、場所を一部を貸していただきました。美容所登録もして、エステとまつげパーマをしながら、終わったあとに、別室でサービスでお客様に私が作ったお菓子を試食してもらうことにしました。
――なるほど。まずはその場所で最初の一歩を踏み出したわけですね。
そうですね。誰かに試食してもらうことで、改善点も見えてきますし、より美味しいお菓子を作ろうと思えます。この経験がなかったらきっと今の私はいないと思います。
お菓子作りについて分からない点は、父に電話で聞き、再度作るといった作業を繰り返していました。ですが、電話では伝わらないことや分からないことも多く、直接教えてもらいたいという気持ちも強くなりました。
コロナもだいぶ落ち着き、お店を開業するために、常陸大宮市商工会が主催する創業支援セミナー(※)を昨年の夏、受講しました。セミナーは毎週開講だったので、その度に東京から常陸大宮市に通っていました。正直大変でしたが、セミナーの翌日は父のところへ滞在して、お菓子作りを教わりました。
電話で教えてもらうのと、直接ではやっぱり違いますよね。
2人で「ああでもない、こうでもない」と言いながらお菓子作りを研究していました。父も疲れているはずなのに、何か閃くと「よしやろう」と立ち上がって、手伝ってくれるんですよ。やはり和菓子職人だなと改めて思いました。
(※)常陸大宮市商工会で、創業・第二創業を目指す方を対象に、セミナーを開催。創業の心構えや、経営に必要な基礎知識習得を図り、創業を成功させるためのポイントを学ぶことができる。
取材・文・写真 常陸大宮市地域おこし協力隊 谷部 文香
工房名にも付けられている「米粉」について、お父様とのエピソード、今後の目標や夢についてお伺いした、インタビュー後編は、こちらからご覧いただけます。
「米粉スイーツKu-」店舗情報

住所:茨城県常陸大宮市野上1607-323(野上原団地内 公園の隣)
駐車場:1台のみスペースあり
電話番号:050-8887-2284
FAX:050-8887-2285
メールアドレス:komeko.sweets.ku@gmail.com
営業日:水曜日、木曜日(事前予約は営業日以外でも受取り可能)
営業時間:10:00~17:00(無くなり次第終了)
「米粉スイーツKu-」の最新情報はSNSをご覧ください。
Instagram:@sweets_ku_
https://www.creema.jp/c/ku-komeko_sweets (クリーマのサイトでも販売予定です)
※2023年3月現在の情報です。
Commentaires