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米粉スイーツKu- 西川久美子さん インタビュー【後編】:父の知恵と米粉が織りなす「幸せのお菓子」をお客様のもとへ



2023年3月1日、茨城県常陸大宮市に、お菓子工房「米粉スイーツKu-(くう)」がオープンしました。オーナーは、東京都内でエステティシャンとして働いていた経歴を持つ、西川久美子(にしかわ・くみこ)さん。ある日突然、和菓子職人の父から送られてきたプリンがきっかけとなり、父の味を引き継ぎたいとお菓子の世界へ足を踏み入れたといいます。


美容の世界からお菓子の世界へ思い切って飛び込んだ西川さん。インタビュー後編では、工房名にも付けられている「米粉」について、お父様とのエピソード、今後の目標や夢についてお伺いしました。

 

西川さんの経歴やお菓子工房を開業しようと思った理由などを中心にお届けしたインタビュー前編は、こちらからご覧いただけます。

 

純白の米粉で作る、優しくて美味しいお菓子


――お菓子というと、小麦粉で作るのが通常で、お父様も小麦粉で作ってきたと思います。西川さんは、工房名にもあるように、米粉を使ってお菓子を作られていますよね。米粉で作ろうと思った理由は何でしょうか。


私自身は、小麦アレルギーでもなく、お菓子作りといえば、小麦粉だと思っていましたし、父も小麦粉でお菓子を作っていました。


ある日、エステ関係の仕事の知り合いから娘さんがアレルギーで小麦粉を食べられず、小麦粉の代わりに米粉を使っていると聞きました。小麦粉でずっとお菓子作りの研究をしていましたが、


「この米粉でお菓子が作れないか、これで美味しいお菓子が作れたら、娘も嬉しいと思う」


という相談を受けました。


お菓子といえば小麦粉と思っていましたが、米粉で作れば、小麦アレルギーの人にもお菓子を食べてもらえますよね。また、私が出会ったこの米粉は、粒子がきめ細やかで、徹底的にこだわって作られたものです。


この米粉なら、お菓子作りの可能性も広がると思ったので、挑戦することにしました。


――そういう経緯で米粉でのお菓子作りを始めたのですね。実際に米粉でお菓子を作ってみてどうでしたか。


お客様からのリクエストで誕生した、米粉で作る「台湾カステラ」。蜂蜜を入れることで、カステラとシフォンケーキの中間のような味わいになるという。お好みで、ホイップクリームやフルーツ、ジャムを乗せても美味しいのだとか。


小麦粉でのお菓子作りは、インターネットで調べればある程度レシピが出てきます。ですが、米粉だとなかなかないので、試行錯誤しながら、実際に作ったものを周りに試食してもらいました。


お菓子作りも最初は父の味を引き継ぎたいという気持ちから始まっているので、父が考えたお菓子の中から米粉でもできるものを、と考えていたんですね。そのときに思い浮かんだのは、「薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)(※)」というお饅頭でした。父に米粉で「薯蕷饅頭」を作りたいと相談すると、米粉のお饅頭は固くなるから通常通り薯蕷粉(じょうようこ)で作った方がいいと反対されました。

(※)薯蕷とは、大和芋・山芋・つくね芋のことを指す。薯蕷芋をお饅頭の皮に用いた蒸し菓子を薯蕷饅頭という。材料も見た目もシンプルながら、素材の味や作り方がダイレクトに表れるため、難易度が高い。

――お話を聞く中で、たびたびお父様から反対の声がありますよね。でもそれは、ただ反対するというよりも、お菓子の世界に長年携わってきたプロだからこそ、一つ一つの物事に対して真剣な印象を受けたのですが、いかがですか。


そうだと思います。父は本当に優しい人なんですよ。和菓子職人として、材料を無駄にするのはいけないということだと思います。お饅頭の中に入れるあんこを作る人もいますよね。それを、美味しくないので食べないというのはもったいないということです。


和菓子職人としての父の気持ちも、もちろん分かっていました。それでも出会ったこの米粉でお菓子を作りたかったので、父に認めてもらおうと研究に研究を重ねました。


やっとの思いで完成した米粉の薯蕷饅頭は、純白でツルっとしたとても綺麗なお饅頭だったんです。それを見た父は「本当に米粉で作ったのか」と、とても驚いていました。


――西川さんのお気持ちがお父様に伝わった瞬間ですね。そのほか、米粉でお菓子を作る中で、お父様との印象的なエピソードはありますか。


薯蕷饅頭が完成した後に作った「くるみもち」は特に思い入れが強いです。


米粉をお餅にするのが難しく、完成までに3か月かかった「くるみもち」。カリっと香ばしく、焼いたくるみがアクセントになっている。くるみもちの後に作った冬季限定の「生チョコくるみもち」は、あんこをチョコレートでくるむというアドバイスをお父様からもらい完成したもの。西川さんの作る米粉のお菓子は、お父様の知恵が合わさってできている。

コロナ禍でなかなか父に直接会えない時期だったので、一人でどうしたら上手く作れるのか、ひたすら研究をしていました。ある程度完成形に近づいたものの、なんとなく納得できなかったんです。


やっと父に会いに行けるようになり、くるみもちを見てもらったら「水分が少ないよ」とすぐ原因を突き止めてくれて、さすがだなと思いました。


ちょうどバレンタインの時期だったこともあり、そのタイミングで、生チョコレートも父に教わりました。そのとき、チョコレートとくるみもちの組み合わせが合いそうだと思いました。また父に相談し、知恵をもらいながら完成したのが和洋がコラボレーションした「生チョコくるみもち」です。


悩んでいることを父に相談するとすぐ知恵を分けてくれるんです。父が隣にいて、本当に良かったと思います。


――西川さんの研究熱心なところと、お父様の和菓子職人としての知恵が合わさって米粉のお菓子が完成するのだと思いました。素晴らしい連携ですね。お父様は西川さんが常陸大宮市に移住し、ここでお菓子作りやお店を開くことをどのように思っていらっしゃるのですか。


さきほどもお話したように、最初はそれこそ、お菓子で生計を立てるのは難しいと反対されました。でも完全に反対されたことはないんですよね。


昨年末、叔母に会った際に、父が本当はお菓子を作りたがっているということを聞きました。だから私がここでお菓子作りをするというのは父にとっても喜ばしいことだと言ってくれたんです。


一番大きかったのは、クラウドファンディングに成功したことです。100万円の予定が約150万円の支援をいただけました。それだけ支援してくれるお客様がいるということで、父の中にあったお菓子で生計を立てるのは難しいといった反対の気持ちが少し変わったようです。その辺りから反対するようなことは言わなくなりました。


クラウドファンディングの返礼品の中に「お父さんのプリン(父プリ)」を入れているので、プリンは父の担当で作ってもらっています。「お父さん、プリンの担当だから頑張って」と声をかけると、「今日も作るぞ」と言い、張り切っていますよ。


父の言葉を胸に抱きながら、米粉の良さを伝えていきたい


――西川さんがここでお店を開くことはお父様にとっても喜ばしいことですね。お店のオープン記念といったような形で、新作のお菓子は作っていますか。


ここ最近クラウドファンディングの返礼品のことで頭がいっぱいで、新作を作ろうという意識が全くありませんでした。そんな中、ある日また父が、突然母に、


「前に作ったコーヒー餡のマドレーヌ美味しかったよな。あのマドレーヌを米粉で作ってみるか」


とぼそっと言って、私に米粉を貰いに来たんです。


父は元気に見えるのですが、最近、病院で余命宣告を受けました。なんとなく私が返礼品で手いっぱいなことを理解しているようで、自分が生きている間に、これまで自分が作ってきたお菓子の中で、小麦粉から米粉に変えて作れるものがあれば、残そうとしてくれているように見えます。どこか父にもそういう意識があるようで、父なりに米粉でのお菓子作りをしています。


――泣けるお話ですね。きっと小麦粉から米粉へ変更したときに、同じお菓子でも、それぞれの分量などが変わったりしますよね。


お店の入口を入り、目の前が店頭販売のスペース。西川さんの作るお菓子は、冷凍保存や冷蔵物が多いが、お父様と試行錯誤の上完成した米粉のマドレーヌは、常温保存が可能。西川さんは「今後、店頭販売をしていく上で、米粉のマドレーヌはぴったりの商品。このタイミングで父と一緒に完成したことをとても嬉しく思います」と笑顔で語ってくださった。

そうですね。米粉のことに関してだけ言えば、2年近くかけて研究しているので、私なりに米粉のくせも分かっています。マドレーヌ作りも私に直接言ってくれれば、一緒に作るのに、父はただ小麦粉を米粉に変えて作っていました。ある程度、調整が必要なのでただ米粉に変えただけでは完成しないんですよ。


父に声をかけて、一緒に米粉でのマドレーヌ作りを研究し、最近やっと完成しました。


――いざというときにお父様の存在はやはりとても大きなものだと感じました。最後に、お店がこれからどんなふうになっていきたいか、どんなお菓子を作っていきたいか、そんな目標や夢があれば教えてください。


一番人気の「豆乳レーズンサンド」は、米粉のクッキーと豆乳クリームのバランスが絶妙。クッキーの甘じょっぱさが後味を引く。解凍時間により食感も変わる、不思議でくせになる美味しさ。


父が作るお菓子が多くの人の心に響いてるのを、そばで見て育ってきました。父のお菓子を食べた人は「他の人とは違う優しい味がする」と言ってくださるんです。そういう話を聞くと、娘として嬉しかったし、今もこの先もずっと自慢の父です。


もちろん売り上げのことも考えていかないといけませんが、人の心に残るようなお菓子を作りたいです。


父は、ただ作って売るのではなく、食べてくれる人の顔を思い浮かべながら作ることが大切だといつも言っています。美味しさや感動には、気持ちという隠し味が大事だと。私も買いに来てくれる人のことを考え、その人が求めているお菓子を作り、多くの人に届けていけたらいいなと思います。


父の言葉を胸に、私としてはやはり、米粉の良さを伝えていきたいです。見た目は、どこにでもあるような普通のお菓子かもしれません。

でも実は「どこにでもあるようでない」そんな米粉のお菓子をこの場所から発信し、多くの人を幸せにしていけたらいいですね。


――西川さん、素敵なお話どうもありがとうございました!「米粉スイーツKu-」の今後の更なる発展を期待しています。この度はお忙しいところインタビューのお時間をいただきまして、誠にありがとうございました。


取材・文・写真 常陸大宮市地域おこし協力隊 谷部 文香


 

「米粉スイーツKu-」店舗情報


「米粉スイーツKu-」外観

  • 住所:茨城県常陸大宮市野上1607-323(野上原団地内 公園の隣)

  • 駐車場:1台のみスペースあり

  • 電話番号:050-8887-2284

  • FAX:050-8887-2285

  • メールアドレス:komeko.sweets.ku@gmail.com

  • 営業日:水曜日、木曜日(事前予約は営業日以外でも受取り可能)

  • 営業時間:10:00~17:00(無くなり次第終了)


「米粉スイーツKu-」の最新情報はSNSをご覧ください。


※2023年3月現在の情報です。

 





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