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執筆者の写真谷部文香

イチゴのプロフェッショナルであり続けたい(おひさまのいちご園 菅野大志さん・久美子さん)

更新日:2023年1月26日



埼玉県出身の菅野大志(かんの・たいし)さんと、兵庫県出身の奥様・久美子(くみこ)さんが経営する「おひさまのいちご園」。

偶然にも出会った茨城県常陸大宮市(御前山)で就農し13年目を迎えました。そんなお二人は、茨城県産の美味しいイチゴをお客様に届けたいと日々イチゴと向き合っています。


今回は移住し就農した菅野さんご夫妻に、就農した当時のこと、イチゴとの向き合い方、13年目を迎えた今だからこその想いなど、さまざまなお話を伺いました。



きっかけは長女の誕生。夫婦で決めた、イチゴ農家への道


――常陸大宮市で就農する以前は、農業とは全く関係のないお仕事をしていたとお伺いしました。農業を生業にしようと思ったきっかけは何だったのですか。


大志さん:

長女が生まれたことがきっかけです。私も妻も仕事よりも趣味を優先しながら、これまで複数の仕事を経験しました。

私は、25歳までプロのスノーボード選手を目指していましたが、残念ながら芽が出ず、諦めることになりました。

両親は自営業をしていて、以前から私も独立志向を持っていたので、スノーボード以外で何かと考えたとき、雑貨が好きだなと思ったんです。「ゆくゆくは雑貨店を経営したい」と、妻の出身でもある関西に行き、約1年ほど雑貨店で働きました。

好きな雑貨店で働いていたとき、長女が生まれて、これからの生活を今まで以上に、真剣に考えるようになりました。

「このまま雑貨店で働いていて大丈夫だろうか」と、そんなことを悩んでいたとき、スノーボード仲間が、スノーボードを楽しみながら、和歌山県でミカン農家や福島県でトマト農家をしているという話を聞きました。

そのときに「農業って良いかもしれない」と思うようになり、農業という選択肢が生まれました。


――身近に農家として働いている仲間がいらっしゃったのですね。「農業を仕事にする」という選択から、更にイチゴを栽培しようと思ったのはなぜですか。


大志さん:

私も妻も周りに畑があるような環境で育っておらず、土いじりすらしたことがありませんでした。新規就農するにあたって、その土地の気候を知り、ある程度の面積が必要な露地栽培よりも、もう少しコンパクトで、環境整備を自分たちでできるハウス栽培の方が合っているかもしれないと思いました。

その後は、収入面と自分たちが好きで食べて美味しいと感じるものがいいと、イチゴを栽培することに決めました。


農業と出会った当時を懐かしそうに振り返ってくださった大志さん。

――なるほど。イチゴを栽培すると決めたのち、就農のための候補地はいくつもあったかと思います。そこからどのようにして常陸大宮市に出会ったのですか。


久美子さん:

最初は、夫は関東、私は関西出身なので、中間地点で考えていました。たまたま出会った静岡県で、就農に向けて、話がかなりまとまっていたのですが、直前で、私が少し思っていたのと違うと感じる部分があり、夫と相談し、静岡県での就農は、断念することにしました。


大志さん:

これから農業を生業としていく上で、やはり納得できないまま始めるのは良くないと思ったからです。

静岡県での就農を見直し、どうしようかと悩んでいたときに、東京都で開催されていた「農業人フェア(※)」に参加しました。さまざまなブースを見学後、茨城県からのレスポンスがとても早かったんです。これもきっと何かの縁だと思い、詳しい話を聞きに行くことにしました。


茨城県は、新規就農希望者に対するバックアップが手厚く、さらには、常陸大宮市で、すでにイチゴ農家として生計を立てられている先輩農家さんに出会ったことも、かなり大きなポイントでした。


そのほか、御前山の景色が本当に綺麗で、農業だけでなく、「イチゴ屋」としてゆくゆくは、お店を開きたいと考えていた私たちにとって、この場所はとても理想的だったんです。


そこからは、周りの方々にも支えてもらいながら、2011年1月1日、ここで直売所をオープンしました。


(※)「いつかは農業を始めたい」「就職·転職先として農業を考えたい」「何から始めれば良いかわからない」など農業に興味がある、これから農業に一歩を踏み出そうとしている方、仕事として農業を考えている方など様々な方が気軽に農業について情報を得られるイベント


茨城県産のイチゴと「選ぶ楽しみ」を提供する


菅野さんが栽培する「いばらキッス」。こだわりは、茨城県産のイチゴを作り「選ぶ楽しみ」をお客さんに提供し続けること

――常陸大宮市と出会ったのもそういったご縁があったからなんですね。御前山で直売所をオープンし、6種類のイチゴを販売しているかと思います。その6種類はどのようにして選ばれたのですか。


大志さん:

数多くある品種の中で、この土地に合うものを探したり、周りから美味しいとおすすめされた品種を育ててみたりしました。直売所でのお客様の人気もそうですが、私たち自身で食べてみて、美味しいと感じたものを残していったところ、現在提供する6品種になりました。

また、茨城県で栽培するので、茨城県産のイチゴは必ず作ろうと心に決めていました。

最初に、常陸大宮市産(御前山)の京虹(きょうこう)を栽培しましたね。その後は、ひたち姫、いばらキッスと栽培し、販売するようになりました。


久美子さん:

直売をメインにしているので、お客様が選ぶ楽しみを作りたいと思っています。今後、品種の入れ替わりがあったとしても、6品種ほどは常に栽培したいですね。

また、先ほどお伝えしたように、京虹は常陸大宮市で生まれた品種。最初に作られた大越望さんは残念ながら亡くなられてしまっていますが、たとえ栽培量が少なくなったとしても、今後も残して、お客様に提供していきたいと思っています。


直売所に足を運んでくれるお客さんを思いながら、イチゴを作り販売していることを話してくれた久美子さん。

――イチゴを通して、お客様に楽しんでもらいたいという気持ちがとても伝わりました。


大志さん:

そうですね。就農した当初から私たちは、単なるイチゴ農家としてではなく、「イチゴ屋」として、ここを「イチゴのテーマパークにしたい」と思っています。直売所では、スーパーに売っていない品種を購入できるのと、イチゴ狩りもできます。

イチゴのシーズン中は、「生のイチゴをどれだけ楽しんでもらえるか」だと思いますが、シーズンオフのときこそ、どんなことができるのか考えていくことが必要だと感じています。

イチゴは食べるだけではなく、キャラクターや洋服のデザインにしても可愛いと思います。

イチゴ農家としてイチゴを作って販売するということだけでなく、「イチゴ屋」として、イチゴの楽しみ方の提案やイチゴの新たな可能性をここから発信していきたいです。


私たちはイチゴ農家ではなく、イチゴ屋


「おひさまのいちごBar(バル)」スタンドの様子。いちごスムージーやいちごミルクスムージー、けずりいちごなどを販売している。(写真提供:おひさまのいちご園)


――大志さんがスノーボードのプロを目指していたように、イチゴを扱うプロとしての意識の高さを感じました。「いちご園」と掲げているのも、そういう想いからですか。


大志さん:

そうですね。もともと「何かのプロになりたい」という気持ちがありました。スノーボードのプロになれず、雑貨店で働き続けることもどうしようかと悩んだときに出会ったのがイチゴなので、イチゴのプロになろうと決めました。

また、私たちは、自分たちのことをあまり農家だと思わないようにしています。「イチゴ屋」という立場で地域に関わっていきたい、イチゴのプロであり続けたいからです。だから他の果物や野菜を作ることは考えたことがないですし、この先もイチゴだけです。

周りは、屋号に地域の名前や自分の名前を入れることが多いですが、そういう想いもあって、菅野農園といった名前は考えませんでした。


――「いちご園」の前に「おひさまの」という名前を付けたのは、何か意味があるのですか。


大志さん:

昔から男の子が生まれたら、太陽という名前を付けたいと思っていました。最初に生まれたのは、女の子で、その後に「イチゴ屋」を始めたので「太陽のいちご園」にしようかと思っていたところ、妻が太陽ではかたい印象だからと「おひさま」にしました。

イチゴも含めて農作物は、太陽・お日様がないと育ちませんよね。全ての源は、太陽の力だと思っています。

そういった経緯で「おひさまのいちご園」という屋号に決まりました。


――「おひさまのいちご園」には、お二人の想いがたっぷりとつまっていると思いました。7月~10月の期間で営業する「おひさまのいちごBar(バル)」は農家ではない、イチゴを扱うお店という位置付けですか。


久美子さん:

そうですね。気持ちとしては、オフシーズンだけでなく、シーズン中もバルをオープンできたらいいなと思っているのですが、現実的な問題もあり、今はまだオフシーズンのみの営業です。コロナ禍以前は、オフシーズンはイベント出店に力を入れていたのですが、コロナ禍も続いていますし、お店を強化していきたいという気持ちもあって、バルの営業に力を入れています。


走り続けた12年。現状を見直し、より良いサービスをお客様へ提供したい


農業未経験から就農した菅野さんご夫妻。イチゴのプロとして日々、イチゴに向き合っている。「やりたい」を形にし、走り続けた12年があったからこそ、今見えている課題にも真摯に向き合っている。

――たくさんのお話、どうもありがとうございました。最後になりますが、13年目を迎えた今だからこそ、考えていること、目指している姿などあれば教えてください。


大志さん:

直売所がオープンした2011年は震災で、10周年を迎えたときは台風19号の被害と、本当にさまざまなことがありました。もちろん辛いこともあったのですが、本当に周りが良い方ばかりなんです。2人だけだったら、きっと精神的にも、もっと辛かったはずです。

皆さんに支えられて今の私たちがいると思っています。特に台風19号の被害にあったときは「イチゴ屋をしっかりやっていこう」と改めて思いました。


今は、新たに何かするというよりも、これから先もこの場所で「おひさまのいちご園」を続けていくことが大切だと思っています。これまで妻と一緒に「やりたい」と思ったことは、規模は別としても形にしてきました。


毎シーズン、イチゴの栽培においては、今年よりも来年、来年よりも再来年というように、成長し続けていきたいと思っています。バルも同じで、去年来てくださったお客様が今年来たときに「○○が変わったね」と少しでも感じてもらえればいいなと思っています。


久美子さん:

先ほどもお伝えしましたが、シーズン中のバルのオープンは、現状難しいです。「○○をしていきたいです」と言えればいいのですが、少し壁にぶち当たっているような感じもしています。

まずは、今一緒に働いているスタッフの力も借りながら、自動化できるところは自動化するなどして、少しでも余裕をもって仕事ができたらいいなと思います。

そうすればきっとその先の「こうしていきたい」というのがまた見えてくるのかなと思っています。


大志さん:

妻は、とても頑張り屋なんですよ。無理のない範囲で、これからも一緒に「イチゴ屋」を良くしていきたいです。

これまで形にしてきたことを改めて見直し、無駄を省くことで、より良いものができていくと思います。例えば、「お客さんの待ち時間を少しでも減らす」や「お問い合わせをもっと分かりやすくする」といったことですね。今は、そういう細かい部分に力を入れています。


久美子さん:

「現状の見直し」といったところが落ち着き、今より効率よく仕事ができるようになれば、きっとシーズン中もバルをオープンできるのではないかと思います。

今シーズンは、バルの発展にあまり力を入れられなかったことが残念でした。私自身、お店が本当は好きなので、それすら辛いと思いながらお客様の接客するということは、とても悲しいことです。なので、気持ちにもう少し余裕が出てきたら、バルの発展にも、楽しく取り組んでいけると思います。


――先に進むための現状の見直しはとても大切だと思いました。大志さん・久美子さん、本日はお忙しいところ、インタビューのお時間をいただきまして、誠にありがとうございました!



取材企画・写真 常陸大宮市企画政策課 広報戦略グループ

取材・文 常陸大宮市地域おこし協力隊 谷部 文香



 

おひさまのいちご園 



  • 住所:茨城県常陸大宮市野口2550

  • 電話番号:0295-55-4415

  • 営業時間:10:00~17:30

  • いちご産地直売・全国発送:12月上旬~5月中旬

  • いちご狩り:1月中旬~5月中旬

  • おひさまのいちごBar(いちご専門cafe):営業期間 7月~10月 ※冷凍イチゴがなくなり次第終了

◆「おひさまのいちご園」最新情報について


※2023年1月現在の情報です。

 

本企画は、広報常陸大宮令和5年1月号の特集「奥久慈いちごの季節がやってきた!」内、第10回『茨城いちごグランプリ』受賞農家インタビューで取材したものです。 菅野さんご夫妻は「いばらキッスの部」で大賞を受賞されています。 広報紙面はこちらからご覧いただけます。


※「茨城いちごグランプリ」とは、茨城県いちご経営研究会が開催する、年に1度の審査会です。茨城県内各地のイチゴ生産者が丹精を込めて栽培したイチゴを出品し、生産技術の腕を競い合います。

 




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